PGIトピックス
プラチナ・レポート4
山梨の工房で磨き上げた
プラチナ原鉱石
2024.10
試し堀りの原鉱石を、展示用の原鉱石へ
プラチナの「原鉱石」を見たことはありますか。これまでもPGIでは、店頭や展示会などで使用いただけるツールとして、原鉱石そのもののご紹介も行なってきました。なかなか見られる機会が少ないことから、関心をよせていただいています。
今回、その展示用の原鉱石ができるまでの「加工作業」の工程を見学させてもらいに、山梨まで行ってきました。 加工してもらう原鉱石は、南アフリカの鉱山から届いたもので、採掘時にどの程度のプラチナが含まれているのかを調べるためのボーリング調査で抽出された、試し掘りの原鉱石を活用しました。
加工前のプラチナ原鉱石
宝石の彫刻・研磨技術を応用して加工
その加工を担当いただいたのは、山梨県甲府にある、宝石・貴石の彫刻や研磨を専門とする工房「貴石彫刻オオヨリ」の代表・大寄智彦さん。普段は、水晶の加工をメインに行なっている職人さんです。
山梨では、古くから水晶が採れたことから、水晶の研磨加工技術が発達し、やがて貴金属工芸と結びついて、現在ではジュエリーは山梨を代表する地場産業として名をはせています。また、宝石の加工・彫刻・研磨、金属の加工・パーツ製作など細かい分業制が確立していて、大寄さんのように宝石彫刻と研磨の両方を行うなど、複数工程を請け負う工房は甲府の中でも数件しかないのだそうです。
伝統的な水晶の研磨加工の様子
ひと工程ずつ、時間をかけて磨き上げる
今回の加工では、まず長い円柱状から切断機で細かくカットし、平面研磨機を使用して一つ一つ表面を磨いていくというものでした。切断機の刃先にはダイヤモンドが使用されていて、プラチナ原鉱石を回転させながら中心部分までカットしていきます。そして次の研磨工程では、研磨剤の粒度を調整しながら、粗削り・中削り・仕上げの順を追って丁寧に磨き上げていきます。最後は、光っているような状態になるまで艶を出していくそうです。
プラチナ原鉱石の研磨の様子
大寄さんは、プラチナ原鉱石の加工は初めてとのことですが、水晶をはじめさまざまな鉱石に触れていることから、手の感触、研磨中の音、表面の変化によって、プラチナの原鉱石ならではの硬さや性質の違いを感じられたといいます。中でも一番の違いは、各工程にかかる時間。プラチナは粘着性があり、比重と密度の高い貴金属であるため、切断機の刃が入りにくく、手元の安定性を保ちながら何度も磨いていく必要があります。
その特性が、身に着けたときの重みやしっとりした装着感につながるのですが、加工という点においては、やはり手間と職人技を要する素材のようです。
今回の経験を機に、そのうち「プラチナ原鉱石の彫刻も手掛けてみたい」とのこと
広がりつづけるプラチナの可能性
プラチナは、1トンの原鉱石からやっと約3グラム(細いリング1本分)採れる希少な存在。普段、手にするプラチナのほとんどは、南アフリカの大手プラチナ鉱山で採掘されていて、特に、100年前の1924年に発見された「メレンスキーリーフ」と呼ばれる層にはプラチナを含む鉱脈が広がっています。
生産者は主に1000メートル以上の地中深くまで潜って採掘し、さらに約8週間もの時間と何十もの精錬工程を経て、ようやく純プラチナになって、私たちのもとへ運ばれてきます。
今回、原鉱石を加工してくれた大寄さんは、デザイナーを擁せず、ご自身の技術と感性で唯一無二のジュエリーを創り上げていくそうです。神秘的なプラチナと、若き職人の感性が組み合わさったとき、どんなプラチナ・ジュエリーが生まれるのか。そうした楽しみも膨らんだ工房見学でした。
貴石彫刻オオヨリ 大寄智彦さん
初代の祖父が確立した宝石彫刻技術を、現代の名工にも選ばれた2代目大寄芳朗さんがジュエリーに取り入れ、現在は若き3代目大寄智彦さんがその伝統技術を継承している。OEMを中心に製作を行っている一方、自社ブランド「TO LABO」の立ち上げや、東京などの百貨店への出展、パリのコレクションなど海外での作品発表といった新しい取り組みも積極的に活動中。山梨のジュエリーブランド「Koo-fu」の制作にも初期に参加し、Koo-fu Pt950地金を使ったトレンド感満載のプラチナ・ジュエリーも手掛けている。
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